女子トイレの利用

はじめに

女子トイレ外出中に気兼ねなく女子トイレを使いたいというトランスジェンダー女性(MTF)の声をよく耳にします。女装した男性が女子トイレに入って現行犯逮捕されるという報道が頻繁になされることからも,その不安・心配は切実なものであることは想像に難くありません。「LGBTトイレ」の問題は,このトランスジェンダー女性の困難を解消するために考えられたものでしょうから,反対の声が多いものの,その意図・目的は評価されてもいいと思います。

そもそも,トランスジェンダー女性が女子トイレに入ることにどのような法的な問題があるのでしょうか? これから,この点について解説していきたいと思います。

建造物侵入罪?

覗き・盗撮目的の場合

パトカー女装男性が覗きや盗撮を目的に女子トイレに入った場合,建造物侵入罪(刑法130条)にあたることは当然といえば当然です。ただし,女装の有無が問題なのではなく,覗きや盗撮という違法・犯罪目的をもっていたことがポイントになります。つまり,女子トイレに入る目的が,トイレの管理者の意思に反するものであるかどうかが,建造物侵入罪にあたるかどうかの決め手になります。

刑法130条は,次のように定めています。

正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。

ここで建造物侵入罪の成否を決めるのは「正当な理由」の有無です。トイレの管理者の意思に反する場合,その立ち入りに「正当な理由がない」ことになります。覗き・盗撮目的で女子トイレに入ることは,当然にトイレの管理者の意思に反するものといえるので,建造物侵入罪にあたります。ちなみに,覗き・盗撮目的で入るのであれば,たとえ生物学上も法律上も女性であっても,トイレの管理者の意思に反することになるので,その場合も建造物侵入罪にあたります。

トランスジェンダー女性の場合は?

では,覗き・盗撮という目的がなく,純粋に用を足すという目的でトランスジェンダー女性が女子トイレを使用することは,建造物侵入罪にあたるでしょうか? LGBTという言葉が社会的に注目を浴びるようになった現在において,トランスジェンダー女性が用を足すために女子トイレを利用することは,トイレの管理者の意思に反するとはいえないでしょう。

そもそも,公衆トイレの場合は公衆浴場ほどには男女の別は厳しくありません。それは,公衆浴場に関する条例と,公衆便所に関する条例の規定の仕方からもわかります。例えば,東京都の「公衆浴場の設置場所の配置及び衛生措置等の基準に関する条例」3条1項15号は,次のように定めています。

脱衣室及び浴室は、それぞれ男女を区別し、その境界には障壁を設ける等相互に、かつ、浴場外から見通せない構造とすること。

他方,公衆便所に関する条例には,公衆浴場と同様の規定はありません。

実際に,トイレに空きがなくて緊急な場合には,女性が男子トイレ,男性が女子トイレに入ることは一般的に許容されているのではないでしょうか?

多目的トイレ・誰でもトイレの増設が望ましい

多目的トイレ以上のように,トランスジェンダー女性が女子トイレに入ることは,建造物侵入罪にはあたりません。しかし,それだけではトランスジェンダー女性が気兼ねなく女子トイレを使えるかというと,そうではないでしょう。なぜなら,トランスジェンダー女性が女子トイレに入った際に,覗き・盗撮目的と勘違いしたほかの女子トイレの利用者が,トイレの管理者や警察に通報する可能性があるからです。

その場合の対処方法としては,性同一性障害の診断書がある場合には,トイレの管理者や警察官に診断書を示して,誤解を解けば,現行犯逮捕ということは免れることはできるでしょう。しかし,そうなると外出する際には診断書を常に携帯しなければならなくなります。そして,そもそも,性同一性障害と診断されていない人はこの対処方法は使えません。

そうなると,トランスジェンダー女性が女子トイレに入ることは法的に問題ないとしても,実際上は,ためらう当事者は少なくはないと思います。結局,この問題をなくすためには,多目的トイレや誰でも利用できるトイレを増設するしかないでしょう。

著者プロフィール

前園 進也
前園 進也弁護士
作家であり新宿二丁目のミックスバーのママ・伏見憲明氏から多大な影響を受け、LGBTに対する法的支援をライフワークとして取り組んでいます。LGBT支援法律家ネットワーク、同性婚人権救済弁護団、「結婚の自由をすべての人に」弁護団等に所属。