HIV/AIDSとプライバシー

HIVに感染している事実や,AIDSであることは,プライバシーとして法的に守られるものですか?
プライバシーとして法的に守られており,これらの事実をみだりに公表したり,無断でHIV抗体検査を実施したりすることは,原則として違法な行為になります。

解説:HIV感染とプライバシー

プライバシーとは,「私生活をみだりに公開されないという法的保障ないし権利」とするのが一般的な定義です。
そして,ある情報が,以下の要件をみたす場合,プライバシーとして法的に守られることになります。

  1. 私生活上の事実または私生活上の事実らしく受け取られるおそれのあること(私事性)
  2. 一般人の感受性を基準にして当該私人の立場に立った場合公開を欲しないであろうと認められること(秘匿性)
  3. 一般の人々に未だ知られていないことがらであること(非公知性)

HIV感染の事実,AIDSであることは,上記3要件を満たすので,プライバシーとして保護されますし,そのことに争いはありません。

HIV感染の事実をばらされそうになったときに,どのように対処すればよいですか?
弁護士に相談して,相手方に警告してもらいましょう。相手方が警告を聞き入れない場合は,被害届の提出又は刑事告訴によって警察に動いてもらいましょう。

解説:プライバシー侵害の防止

プライバシー侵害は違法行為ですので,弁護士に相手方に口頭又は書面で警告してもらうのが,一番簡単な方法です。
相手方が直接被害者に対して,HIV感染の事実をばらすと脅している場合は,以下に挙げる犯罪が成立する可能性があります。

  • 脅迫罪(刑法222条)
  • 強要罪(刑法223条)
  • 恐喝罪(刑法249条)

いずれかに該当しそうな場合は,最寄りの警察署に対して,被害届を提出するか刑事告訴をして,警察に介入してもらうのが一番強力な対抗手段です。ただ,被害者が一人で警察に行っても,相談で終わってしまい,警察は実際に動いてくれないことが多いです。しかし,弁護士が同行すれば,邪険に扱われることは少ないので,弁護士と一緒に警察に行くことをお勧めします。

HIV感染の事実をばらされてしまった後は,ばらした相手に何を求めることができますか?
プライバシーの侵害として慰謝料を請求することができます。

解説:プライバシー侵害と損害賠償

HIV感染の事実や,AIDS発症の事実は,プライバシーとして法的に保護されることは,上で述べたとおりです。
そして,次の要件を満たす場合に,慰謝料を請求することができます。

  1. HIV感染等の事実を第三者にバラされたこと
  2. バラされたことが受忍限度を超えるものであり(常識的に考えて我慢できる被害の程度を超えること)
  3. 故意(わざと)または過失(不注意で)によってバラされたこと
  4. バラされた本人が精神的苦痛を感じたこと

HIV感染の事実を「公表」されたことだけにとどまらず,HIVに感染しているか否かの情報を取得することもプライバシーの侵害と考えられています。
プライバシー侵害は,秘密漏示罪に該当しない限り,一般的に刑事処罰の対象にはなりませんので,HIV感染の事実等がバラされた後に,警察に行っても弁護士に相談しろと言われて,帰されるだけですので注意してください。

HIV感染等の事実をインターネットの掲示板やブログ,Twitter等に書き込まれた場合,その書き込みを削除できますか?
できる場合はあります。ただし,掲示板等の管理者によってその難易度は変わります。

解説:プライバシー侵害と削除

ブログやTwitter,Facebook等のSNSの場合は,HIV感染等の事実を書き込んだ人物に,メールやDM(ダイレクトメッセージ)等で削除するように求めましょう。
書き込みした本人が削除してくれない場合,または,一度書き込んだ投稿は管理者以外消すことができない掲示板の場合は,お問い合わせフォームやカスタマーセンターを通じて,管理者に対して削除依頼をしましょう。利用規約違反として管理者が削除してくれる場合があります。
以上の方法を使っても削除することができない場合,弁護士に相談してください。弁護士と相談のうえ,送信防止措置(=削除)依頼書の送付,または,削除の仮処分等の法的手続の利用を検討してください。

HIV感染等の事実をインターネットの掲示板やブログ,Twitter等に書き込まれた場合,書き込んだ相手を特定することはできますか?
できる場合はあります。ただし,削除よりも難易度が高くなります。

解説:プライバシー侵害と発信者の特定

HIV感染等の事実を広くオープンにしていないにもかかわらず,匿名の人物にインターネット上にそれらの事実が公表された場合,その匿名の人物を特定したいという気持ちになると思います。掲示板やブログ,SNSを利用して公表された場合には,プロバイダ責任制限法(正式には,「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」といいます)によって,その匿名の人物が誰なのかを特定することができるかもしれません。
匿名の人物を特定するためには,通常,以下のような2段階の手続が必要です。

  1. 掲示板等の管理者からIPアドレスや書き込みされた時刻などを開示してもらう
  2. 1.で開示してもらった情報に基いて,プロバイダに対して契約者の情報を開示してもらう

削除とは異なって,1.と2.ともに,管理者やプロバイダは簡単には開示してくれません。ですので,どうしても匿名の人物を特定したい場合には,早急に弁護士に相談してください。
IPアドレス等に関する情報(ログ)は短くて数週間,長くても6か月程度で消去されるので,迅速な対応が必要です。

著者プロフィール

前園 進也
前園 進也弁護士
作家であり新宿二丁目のミックスバーのママ・伏見憲明氏から多大な影響を受け、LGBTに対する法的支援をライフワークとして取り組んでいます。LGBT支援法律家ネットワーク、同性婚人権救済弁護団、「結婚の自由をすべての人に」弁護団等に所属。